地銀融資、「無保証」が過半
福邦銀や京都銀、伸び率高く 事業承継・起業に追い風
地方銀行で経営者に個人的な債務保証を求めない無保証融資が急増している。
金融庁によると2023年4~9月の地銀99行の新規融資に占める無保証融資割合が、半年前(22年10月~23年3月)より14ポイント高い54%となった。メガバンクなど大手行9行は4ポイント高い76.5%だった。23年4月の金融庁の監督指針改正をきっかけに、個人保証に頼った融資慣行が大きく変わりつつある。
経営者保証は会社が返済不能になった場合に経営者個人が私財を差し出して借金を返済する契約のこと。経営者の心理的なハードルが高く、事業継承や起業の妨げになっているとの指摘がある。
金融庁の調査によると、23年4~9月は99地銀のうち96地銀で無保証融資の割合が半年前より上昇した。無保証融資比率の伸びが最も大きかったのが福井県が地盤の福邦銀行で、25%から74%へ49ポイント上昇した。次いで京都銀行が39ポイント、長野県が地盤の八十二銀行が37ポイント、横浜銀行が35ポイント上昇した。
福邦銀行は昨春から、経営者保証を求める案件を本部に申請し、申請後も必要かどうか一件一件精査するプロセスに変えた。従来は経営者保証を求めない場合に本部に申請をしていた。担当者は「保証を求めない融資を進めるには従来以上に企業としっかり向き合うことが必要。企業との関係性で良い効果が出てきている」と話す。
京都銀行は「原則代表権を有する経営者1人を徴求する」としていた保証の取り扱いを「原則無保証にする」に変更した。支店長の権限で無保証融資を決議できるようにしたのも伸び要因だ。現場経験が浅い行員でも一定レベルで企業に説明できるように、説明の助けとなる動画も作成した。
新規融資に占める無保証融資比率は東京スター銀行の96%が最も高い。次いで地銀単独の融資(プロパー融資)で経営者保証を廃止した北国銀行が87%。中小企業向け融資を専門とする東日本銀行が81%と高かった。
地銀でも無保証融資比率が軒並み上昇したのは、23年4月の金融庁の監督指針改正で経営者保証を求める手続きが厳格になったことがある。経営者保証を求める場合は保証契約の必要性などの企業に具体的に説明することを義務付けた。説明した件数は金融庁にも報告が必要となり、安易に経営者保証を付ける慣行を是正する狙いだ。
金融庁が経営者保証を付ける慣行の見直しを促すのは、事業継承や起業などによる経済の新陳代謝を促すためだ。経営者保証は経営の規律つながる一方、事業に失敗すると経営者は自宅不動産や私財を失い、生活や再挑戦が難しくなる。事業継承などに二の足を踏む要因といわれてきた。
経営者保証が次外れても、貸出金利などの貸し出し条件には「直接的な影響は及んでいない」(金融庁)との指摘がある。もともと銀行が経営保証を求めるのは、全国銀行協会などのガイドラインで示される法人と個人の分離などの要件を満たしていない場合に限られるはずだった。ところが、要件を満たしていても「慣習で当たり前のように(経営者保証を)付けていた」(関東地区地銀)ケースが多かった。こうした保証を外したからといって、金利引き上げは求めにくいという。
今後の課題は、比較的リスクの高い先が対象となる信用保証付き融資での経営者保証の取り扱いだ。中小企業の4割が使う信用保証制度では、融資の7割で経営者保証が使われている。銀行が使用保証付き融資を利用する場合に経営者保証を求めるかどうかはあらかじめ信用保証協会が銀行に示している。
日本経済新聞 2024年2月8日 記事より